馬への思い

 僕たちは馬の魅力に取りつかれてから40数年経ちました。はじめは皆さんと同じく、乗馬クラブに通って練習しました。

 そしてさらに上達したくて、乗馬クラブに就職して経験を積ましていただきました。騎乗の技術を磨き、理論を覚え、レッスンさせて頂けるようになりましたし、ライセンスや指導者資格も取らせていただきました。
 馬を調教して、その馬に乗ったお客さんが競技で好成績を収めたり、自分の調教した馬が売れたりする事がとても楽しく感じた時期が続きました。

 沢山の方に乗馬を楽しんで頂くためには、騎乗して頂く馬達をただ調教するだけではなく、体調管理の為にその馬の運動量に見合うような給飼に調整したり、怪我を治療したり、馬体の状態を確認して適切な馬具を準備したりしなければならないという事を学びました。
 皆に乗りやすいと言ってもらえることが嬉しかったですし、そこにやりがいを見つけ出しました。乗りやすい馬は良く使われ、徐々に故障も多くなって行きました。

 試合の出場がまじかに迫った時に、少しハードな練習をして、下肢部に問題が生じました。そのため当該馬には治療と休養が必要となり、その試合の出場はキャンセルせざるを得なくなり、出場予定だった方にご迷惑おかけしてしまいました。
 またその試合に向けて準備したことや、費やした時間と労力なども、無駄にさせてしまったし、期待を裏切ることで離れていく方も出ました。

そんな馬達に、 自分に出来ることは何か?という事を深く考えました。

 馬の負担を減らすことを考えながら、獣医師のから指示や自身で学んで怪我の治療を覚えて、治療に向き合いました。それと同時にどうすれば怪我や体調不良を防ぐことが出来るのかを考え、模索しました。
 今でこそ動物愛護の法律も整備され、馬達の稼働時間も目安が出来ましたが、この当時はそんな情勢ではなく、競走馬を引退した馬を乗馬として再活用することはそれだけで肥育に回されと畜される馬よりマシ?なんだからと言う感じで馬達の使役環境はあまり良くはなかったですが、大人しい馬がいないと成り立たない状況でしたので、何とかその命を繋ぎ留めたかった時期でした。

 そんな時、久しぶりにまとまった休暇が取れたので実家に帰り、騎乗出来なくなった後も父が余生を送らせてていた愛馬ブラックアドミラル号に会いに行きました。高齢の為、すでに騎乗は出来ませんでしたが、家族みんなで調教し、試合に参加したりした馬です。去勢することを拒否したため、繋留先がなかなかなく、毎日父が早朝に世話しに行ってました。
 
 全身真っ黒の青毛のサラブレッドで牡馬でしたので、何か神々しく、特別な感じのする馬でした。但し牡馬だったので引馬や競技場で興奮して扱いが難しかったし、準備運動で飛び過ぎるとコースで落下があるので、準備運動をし過ぎないでフレッシュな状態で臨むことも時としてありなんだというを覚えました。高校1年生くらいまでで、今でいうM-DからM-Cクラスまでを沢山経験を積ませてくれた。もともとエビで競走馬を引退したので、常にそういうケアを心がけることを教わった馬でした。

 楽しく再開を果たし、放牧場で何かを訴えるように目の前ではしゃいで立ち上がったり、跳ねて走り回ったり。10年ぶりくらいの再会でしたが僕を覚えていてくれて、何か嬉しそうに、何かを訴えているようでした。集牧して手入れして厩に帰し夕飼いを上げてから帰路につきました。

 心を充電し、また心新たに仕事を頑張ろうとした翌々日に訃報が届きました。
 再会し帰った翌日から疝痛を起こし、翌日に虹の橋を渡ったみたいでした。

 その頃、疝痛の治療薬でバナミンがまだ輸入品のみで高価でしたが、疝痛の初期治療薬として普及しだした頃でしたので、父に教え投薬を促しましたが、往診して頂いた獣医師はまだ使用してなかったので、どうしようもなく、ただ見守るだけだったらしいです。
前回帰省した時は、僕が中学生の時にもらってきた犬のコロが同じように無くなりました。中学生の時に通学路で捨てられていた中の一匹でした。

 その頃から、すべて獣医師任せではなく、自分も勉強して知識を持ち、治療方針などを獣医師と相談し、獣医師が往診できない時でも、獣医師の指示で治療の補助代行が出来るようにならなければという気持ちが固まりました。獣医師に往診いただき、治療をお願いする際には進んで助手させていただき、宵越しでの治療などで時間の許される場合には、治療方法や管理、臨床例など色んなことをお聞き出来ました。今でもその経験が役に立ってます。

 結局は馬をよく観察することで、馬の異変を早く察知し、早期に治療を開始できるかが重要になるようです。経験を過信せず、必ず獣医師に報告と相談をして指示を仰ぐことが大切だと思います。

 獣医師の指示のない状態で勝手に治療をして、治らないから獣医師に往診を依頼するという事をしていると、いつか獣医師に往診を断られると思います。

 乗馬クラブに預託される馬を管理するという事は、飼育・衛生・運動・調教管理するという事です。このすべてが連鎖してます。

 各馬匹ごとに、調教状態やフィジカル面も違うし、オーナー様の騎乗技術も違いますから練習内容や調教プランにより運動負荷が変わりますし、状況は日々変化します。。それに見合った給飼や作業(馬の体調管理に必要なもの)もついてきます。ここですべてを書き記すことはしませんが、例えばジャンプした日はその内容により、下肢部への負荷を考慮してアイシングやバンテージングしたり、抗炎症剤の塗布やマッサージなども行いますし、翌日の運動プランやハックや放牧などのメンタルケアも必要な場合も出てきます。

 それぞれ馬匹ごとにオーナー様がいて、練習の頻度や要求度が違いますから、各馬匹の性格や体力、資質やフィジカルの状態で、日々の作業等も大きく変わってきます。

 あくまでも、馬の能力を認め、その力を馬術的な表現で表すために調教して行きますが、すべての馬が人の要求を理解できるわけではありませんし、いくら熟練しようとも人がすべての馬に対して理解させて服従させれるものではありません。

 乗馬をする際、もしくは馬術として馬の調教に携わる際には、このことを真摯に受け止め、いつでも自分の能力を過信せず、馬に理解を求める際には謙虚に自分の力を認め、馬の上に立つべく手技を磨き、無理困難束縛を排除し、馬が理解できる処へと立ち返り、あきらめず、感情的にならないような方法で、馬の理解を引き出すことが重要ですね。

 そして馬が人を乗せた状態でその要求を満たせるようなフィジカルを持たない時は、まず地上でそれが出来うるようになるようにまず鞍上から地上へと下り、調馬策等で改善するためのフィジカルトレーニングの為の運動を求め、馬体の成長を待ち、暴力で強いることなく、馬のフィジカルを越えすぎないように日々、向き合いながらトレーニングに努め獲得してから、騎乗でのトレーニングを再開すれば、馬が地上でのトレーニングで獲得出来たフィジカルを、馬上で扶助と結びつけることが出来るようになると感じてきました。まだまだ未熟ですが・・・。

 ホースマンシップというジャンルにも興味があり、馬の調教上で取り入れられる部分があればと、知り合いと共に体験してみました。
 M師に自分のクラブでの講習会や数度、同士のクラブでの講習会に参加させていただき、馬の習性や行動について再確認でき、また馴化という方法も学びました。未だ見せていただいたことを同等のクォリティーでは出来ませんが、リバティーワークやグランドワークなどでブリテッシュでの調教に取り入れられることは、少しアレンジしながら、今のロンジングや、会員レッスンでもの指導方法にも取り入れ、役立ってます。
 私どものクラブはブリテッシュ方式ですが、ウエスタンから派生したこのナチュラルホースマンシップという概念は、同じ馬という動物と共にスポーツするために、人が扱い易いような状態になるように調教するという目的の為に、力での服従という理解でしたが、今は馬の群れのボスが全然主従関係を構築するための行動規範から学び、群れの安全を担保するために行う行動を理解し、我々人間がボスに成り代わり、馬の習性に沿って馬を調教することがナチュラル(自然的)な主従関係を構築することと理解して、日々馬とのゲームを楽しめるようになりました。

 色んな経験を積み、沢山の馬に携わり、沢山のレッスン?騎乗のお手伝いをさせて頂いて来ましたが、振り返るとあらゆる技術の未熟さゆえに、至らない点も多々ありました。今もまだ道半ばで、満足行くレッスンも調教にも至らない日々なのでしょう。そしてそれを改善するためには、日々あきらめずに馬と自分に向き合い、馬の反応を読み解き、そこから新しく学び、またそれをレッスンなどで「教うるは学ぶの半ば」と言うことを実践し続けることが必要ですね。

 

続く(2022/04/16)